EYEO 2011 · Nervous System
自然のかたちを写す、その先へ — Nervous Systemの生成するデザイン
葉脈や結晶から取り出した成長の仕組みを、装身具や照明へ。自然のモデルを道具に変え、製造の制約や使う人の参加まで設計する二人の実践。
- 登壇者
- Jessica Rosenkrantz / Jesse Louis-Rosenberg
- 開催年
- 2011
- 講演原題
- Nervous System(動画には個別の講演題名の記載なし)
- 記事更新
- 2026.10.17
枝分かれした葉脈や結晶、入り組んだ生物の模様。その輪郭だけを借りてきても、なぜその形になるのかは分からない。Nervous SystemのJessica RosenkrantzとJesse Louis-Rosenbergが2011年のEyeoで紹介したのは、形を生む過程へ近づき、その仕組みを自分たちのデザインの道具として使う実践だった。
講演は反応拡散や葉脈のモデルから始まり、装身具、照明、パズル、食器へ進む。抽象的な計算と日常のものづくりは、離れた話ではない。自然を観察して生じた疑問を、動くモデル、操作できるソフトウェア、手に触れられる製品へとつないでいく、一続きの活動である。
模様を生む、局所的なやり取り
二人が最初に説明するのは、反応拡散という考え方だ。物質が空間へ広がり、互いに反応する。その局所的なやり取りが繰り返されることで、全体に模様が現れる。講演では、Alan Turingが1952年に発表した研究にも触れながら、同じような要素から異なる構造が生まれる問題を紹介する。
ここで重要なのは、模様の各部分を一つずつ指定しなくても、相互作用の規則から形が生じることだ。活性化と抑制の関係や、広がり方の違いを変えると、結果の見え方も変わる。二人の関心は、すでにある模様の再現だけでなく、その変化の範囲にも向いている。
一方で、似た模様を計算できることが、その生物の中で実際に同じ機構が働いている証明になるわけではない。講演でも、生物で起きていることの確定には難しさがあると語られる。自然の説明モデルと、デザインに使う生成の仕組みを、同じものとして扱いすぎない姿勢が大切になる。
葉脈の効率より、育ち方に関心を持つ
葉脈の話では、機能から形を説明する視点と、成長の過程から形を説明する視点が区別される。必要な物質を運ぶ効率と、構造をつくる費用を考えれば、葉脈を最適化の問題として捉えられる。しかし、出来上がった網目が効率的だと分かるだけでは、どのようにその網目が育ったかは説明しきれない。
二人が惹かれるのは後者である。葉の中を流れる植物ホルモンのオーキシンと、その流れが通り道を強めるフィードバックが紹介される。水が土を削り、できた溝へさらに流れが集まるように、局所的な変化がその後の成長の方向を変えるという見方だ。
この見方は、完成した形だけを観察していては見えにくい操作の可能性を開く。流れの出発点を変えたらどうなるか。成長する領域を変えたらどうなるか。生成の仕組みを理解することが、新しい形を試すための入り口になる。
ただし講演で紹介されるデザイン用の葉脈モデルは、生物のすべてを忠実に再現しようとするものではない。二人は後に、効率よくそれらしい結果を得るコンピュータグラフィックスの手法を使うと説明する。科学的な正確さの追求と、形を探索する道具の設計には、目的の違いがある。
DendriteからHyphaeへ、規則を道具にする
Dendriteは、拡散律速凝集という仕組みをもとにした初期のプロジェクトだ。ランダムに移動する粒子が、すでにある構造へ触れると付着する。その繰り返しで枝分かれした構造が育つ。同じ規則から出発しても、一つずつ異なる結果が現れ、それを装身具へ展開した。
この仕組みは、スタジオの公式コンセプト紹介でもDendriteの基盤として説明されている。制作の対象は、一個の固定された形だけでなく、さまざまな形を生める系になる。個体差を誤差として消すのではなく、シリーズの性質として扱えるようになる。
葉脈をもとにしたHyphaeでは、境界となる領域に成長を促す点を置き、根となる線から網目を育てる。線は周囲の点の影響を受けて伸び、近づいた点は取り除かれる。この操作を繰り返すと、枝が広がり、つながりを持つ構造が現れる。
ここで設計者が操作するのは、すべての線の位置ではない。領域の境界、点の密度、距離による影響、根の数など、成長の条件である。二人は密度を変えたり、複数の根を置いたりして、自然に見えるものから自然にはなさそうなものまで試していく。
試行の中では、境界に凝った形を与えることをやめ、単純な幾何学形へ戻る判断もあった。外側の輪郭より、内部のパターンの違いを見せたかったからだ。アルゴリズムが複雑になるほど良いという話ではなく、何を見せるかに応じて条件を絞るデザインの判断がある。
三次元にすると、別の問題が現れる
平面の網目を三次元へ伸ばすと、計算の速度だけでは済まなくなる。どの線がどの点へ影響するかを調べる処理を効率化し、さらに生成した線を、3Dプリントできる立体の表面へ変換しなければならない。成長の計算と製造用の形状づくりは、それぞれ異なる課題になる。
見え方にも問題が生じる。内部まで密に伸びる構造は、入り組みすぎて、二人が面白いと感じていた網目を認識しにくくなった。そこで、表面を中心に成長させたり、内部の密度を落としたりする。三次元化は単純な拡張ではなく、見る人が構造を把握できる条件の再設計でもあった。
照明になると、計算上の形には光や影、触感、物理的な大きさが加わる。Hyphae Lampsの公式紹介でも、個別に生成された構造と、そこから生まれる異なる影が説明されている。画面上で選んだ形が、空間の見え方へ影響するものに変わる。
講演では、当初試そうとした陶材の製造方法が疎な構造に適さず、うまくいかなかったことも明かされる。材料の都合を最後に解決するのではなく、つくりたい形と、その時点で実現できる方法のあいだを往復している。
ここで二人が求めるのは、画面上で美しく見える線の集合を、そのまま拡大して立体化することではない。網目を認識できる密度、物として成立する厚み、造形できる素材、光を通す空隙が、それぞれ結果に影響する。パラメータの値を変える操作も、製品になったときの経験を含む判断へ変わっていく。
製造の制約を、生成条件へ戻す
パズルのプロジェクトでは、職人が一つずつ切る木製パズルへの関心と、アンモナイトの複雑な縫合線への関心が結びつく。二人は凝固のモデルを、隣り合うピースの境界を育てるために組み替えようとする。
物理現象の正確な予測が目的なら、不自然な条件を導入するのは問題になる。しかしここでは、現実には成立しないような対称的な成長を計算上で試し、ピースの境界を生むことに意味がある。モデルは現象を説明する道具であると同時に、目的に応じて変形できる制作の材料にもなる。
食器の例は、その姿勢をさらに具体的に示す。凹凸の多いカップを型で成形するには、型を分割できる境目が必要だ。複雑な模様を横切る継ぎ目を後から手作業で消すなら、製造の手間が増える。そこで、模様の中に境目を自然に収められるよう、生成の条件を調整する。
皿には食べ物を置くための平らな領域が必要になる。模様を美しく生むだけではなく、使う場所では模様を終わらせる必要がある。機能や製造の条件を外部から形へ押しつけるのではなく、成長の仕方へ戻して解くところに、この実践の特徴がある。
使う人も、生成の過程へ参加する
設計の考え方がソフトウェアに組み込まれていれば、その一部を他の人へ開くこともできる。Cell Cycleの紹介では、細胞状の構造を変えながら、形状と製造価格をブラウザ上で確認する仕組みが語られる。使う人は用意された色を選ぶだけでなく、ものの構造に関われる。
二人はこの参加を、所有するものとの関係を深める方法として捉える。自分が操作した条件から生まれたものなら、形の理由や制作の過程にも関心が向く。講演では、互いの結婚指輪をサイトでデザインした利用者の例も紹介される。
抽象的な仕組みに関心があるなら、なぜ消費者向けの製品をつくるのか。二人の答えは、日常的に触れるものが持つ文化的な作用へ向かう。次々に流れる画像と違い、手元にあるものとは継続して関わる。その関わりの中に、形の成り立ちを不思議に思うきっかけを置こうとしている。
質疑では、建築のような大きなスケールにも関心が向けられる。二人は、装身具の制作が、実現しやすい大きさの模型づくりから始まった面もあると話す。より大きなものに進むほど、大小のパターンを組み合わせる可能性が広がる一方で、考慮すべき機能や条件も増える。
そのため、照明や装身具という現在の対象には、単に小さくつくる便宜以上の意味がある。扱える条件の範囲で系を理解しながら、次の大きさへ進む準備をする場にもなる。将来の建築への関心を語りつつ、目の前で実現できるものをつくる。その段階的な進み方も、講演で示される実践の一部だ。
制作へ持ち帰るための視点
ここからは編集上の考察です。 この講演は、自然から着想を得るときに、見た目の特徴に加えて、変化を起こす規則を探す視点を与えてくれる。輪郭を模倣する前に、何が移動し、どこで蓄積し、どの条件で成長が止まるのかを問い直せる。
また、生成された大量の結果から好みの形を選ぶだけでなく、どの条件を操作できるようにするかも設計の対象になる。Hyphaeの境界や密度、食器の継ぎ目は、その具体例だ。使いやすさや製造の条件を、生成の仕組みと早い段階から結びつけられる。
最後に、モデルを理解することと、自然を完全に説明することは区別したい。二人の実践が示すのは、科学の道具から学びながら、目的に応じて問いを組み替える自由である。どんな規則を使ったかに加え、それを通じて何をつくり、誰とどんな関係を生むかまでがデザインになる。